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思いついて途中でやめたもの/腐注意
夏の匂いがする、と黒子が言った。
日本の四季の移り変わりには香りが付きまとうらしい。そういえば去年も同じようなこ
とを言っていたなと思い出した。
匂いって、なんだよ。と前は尋ねたけれど、いまはなんとなくわかるような気がして聞き返さなかった。
いちいちが感傷的で、物思いにふけるときがある。そんなとき、苛立つのだ。 自分が入っていけない世界に、ひとりだけで飛び込んでいって、そのくせ拾ったものをこちらには見せてこないで微細な変化を貼り付けて見せる。
「デートらしいデート、しますか」
珍しくそんなことを言って誘ったので、普段ならローテーションになっている行き先を変更し電車に揺られた。
昨夜のことは一体どうしたのだろうと、その穏やかさが不穏で、火神は喉の奥から込み上げてくる苛立ちを堪えた。
卒業してから付き合いだして、もう三年目になる。同棲こそしていないが、高校生のころから行き来はしていたから、黒子が一人暮らしを始めてから互いの部屋に交互に入り浸るようになれば、もう半同棲と言っても差し支えはない。
だからと言って、なにか変わるかといえばそれまで通りで。変わらず喧嘩の頻度は多かったし、一歩外に出れば周囲を困惑させる仲が良いのか悪いのかわからない不思議な距離感は通常通りだった。
だからーー、何も変わらないというのはよいことなのか悪いのことなのか。
安定していると言われればそれまでの付き合い方に、安心よりも徐々に現れたのは皹だった。自然の状態が良いと、水を撒かれることなく時折降り注がれる雨にばかり頼った。
何がよいとも悪いともつかず、日々の繰り返しの中で感じる愛情の端々を受け止めるだけではいつのまにか足りなくなっていた。
淡々とした返しに不服はなくて、それは高校から変わらなかったはずで。
無神経な言葉がいつまでも直らないのにも慣れていて、かわし方を身につけたはずなのに。
根底にある信頼は土壌として硬く築かれていたもののの、その上に積み重ねていた層は目をかけないうちにじわじわと脆くなっていた。
決定的なできごとが起こらない分、もろもろと崩れていく実感だけが蝕み、二人を傷つけていた。